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総説
一、川越市の位置及地勢
川越市は大正十一年十二月一日を以て、 川越町と仙波村きを合併して、 市制を施行したるものにして本県唯一の市たり。
位置は我が埼玉県の東南部に在り、県央を離るゝこと五里余、東京市を距ること約十二里にして、入間郡の東北部に位す、西は秩父連山を望み、東には荒川を帯び、四園は美しき田野と、武蔵野を彩る入間、越辺、赤間等の諸川流るゝ間に、自ら坂東平野の都市として、古くより武蔵の大邑となれり。
ニ、地勢
市の南方は高台にして、漸次市街地として発展しつゝあり。仙波の南端に不老川ありて、福原、高階両村と境す、東は水田にして、古谷、芳野の両村に接し、伊佐沼あり、西は田面沢村、北は山田村に連接す。此の外小仙波及大仙波は各台地の下より湧き出づる泉集りて小川となり、仙波河岸等より新河岸川に入る、之を境として南古谷村に接す。赤間川は入間川より分流して、田面沢村を過ぎ、西より北に流れ、更に東に折れて伊佐沼に注ぐ、頗る灌漑の便あり。市街は高爽なる土地にして、此處より各方而へ通ずる街道は四通八違の利あり。
本市は凡そ東経三十九度余、北緯三十五度余の間にあり、第四紀古層に属し、方面によりて土質を異にす、沖積層地あり、洪積層地あり、故を以て米穀に宜しき所と、蔬菜に適する所とあり。市の東方(城地)は海抜二十一米あり、河川の沿岸はそれよりも稍々低し。
三、広表
市に地域は東西三、八一八米、南北五、五六四米面積五、四方哩にして、川越、松郷、寺井、東明寺、小久保、脇田、野田、小仙波、大仙波新田、大仙波、岸、新宿の十二大字より成る。之を三十五区に分劃す。(昭和三年度市勢一覧に依る)
川越市区名区域一覧
本町区 | 大字川越字本町 |
郭町区 | 大字川越字郭町 |
宮下町区 | 大字川越字宮下町、大字川越字城下町、字寺井溝 |
志多町区 | 大字川越字志多町、大字川越字坂下町 |
宮元町区 | 大字川越宇宮元町、大字東明寺字宮元町、大字寺井字宮元町 |
神明町区 | 大字川越字神明町、大字東明寺字神明町、大字寺井字神明町、大字小久保字神明町 |
喜多町区 | 大字川越字喜多町、大字川越字坂上町 |
高沢町区 | 大字川越字高沢町 |
石原町区 | 大字川越字石原町、大字小久保字石原町 |
南町区 | 大字川越字南町 |
鍛冶町区 | 大字川越字鍛冶町 |
多賀町区 | 大字川越字多賀町 |
江戸町区 | 大字川越字江戸町 |
三久保町区 | 大字川越字北久保町、大字同字南久保町、大字同字清水町、大字同字堅久保町 |
上松江町区 | 大字川越字上松江町 |
通町区 | 大字川越宇通町、大字同宇一番町、大字同字二番町、大字同字三番町、大字松郷字通町 |
中原町区 | 大字川越字中原町、大字同字瀬尾町大字松郷字瀬尾町、大字川越字大工町、大字松郷字中原町 |
新田町区 | 大字川越字新田町、大字同字西町、大字同字黒門町 |
橘町区 | 大字川越字橘町 |
志義町区 | 大字川赳字志義町 |
相生町区 | 大字川越字相生町、大字東明寺字相生町、大字寺井字相生町 |
鷹部屋町区 | 大字川越字鷹部屋町、大字川越字五反 |
六軒町区 | 大字松郷字六軒町、大字川越字六反 |
連雀町区 | 大字松郷字連雀町 |
松江町区 | 大字松郷字松江町 |
久保町区 | 大字松郷字久保町 |
猪鼻町区 | 大字脇田字猪鼻町 |
脇田町区 | 大字脇田字西町、大字脇田字永井町 |
境町区 | 大字野田字境町 |
小仙波区 | 大字小仙波 |
杉下町区 | 大字松郷字杉下、大字寺井字伊佐沼、大字松郷字伊佐沼、大字寺井字四ツ谷 |
仙波町区 | 大字大仙波 |
菅原町区 | 大字大仙波新田 |
喜志町区 | 大字岸 |
新宿町区 | 大字新宿 |
戸数 | 六千七百五十九戸(昭和七年度現住戸) |
土地
国有地 | ||
神社地 | 一町八段歩 | |
寺院地 | 七町四段歩 | |
其他 | 四三町七段歩 | |
計 | 五二町九段歩 | |
民有地 | ||
田 | 四九九町五段歩 | |
畑 | 三九五町一段歩 | |
宅地 | 六三萬二千十六坪 | |
池沼 | 三段歩 | |
山林 | 一七町四段歩 | |
原野 | 二町三段 | |
雑地 | 一段歩 | |
計 | 九一四町七段歩・六三萬二千十六坪 |
川越市は旧城下町時代には、城下町十ヶ丁と屋敷町及び郷分等より成り、町制時代には八大字の編成となり、後仙波村の四大字を合併して現時の十二大字となれるなり。共の市街の特色は地方都会に似ず、其の区割の整然たる点にありとす、此事は後項各沿革史上に逐一記せり。而して近時、耕地整理組合を設立して、市内南部方面は、都市計画を意味せる耕地整理に着手することゝなれり。
四、交通
本市は国道の要路より離れをりしも、交通便利にして、陸路の外、河川を利用し、舟運を以て運輸機関となせり、寛永時代松平伊豆守の各河川を改修し、叉江戸街道を修造せしが如き、当時城下町の商業上に利便を与へて、交通史を飾れるものといふべし。町制時代に至り、各地に新街道を設けしが、就中中仙道に通ずる大宮街道(県道)を新設せり。これは当時国有鉄道本市に敷設せられざりしよりこの県道を新設して、川越、大宮間の連絡を企てしなり、やがてこれが現在の電車を我市に敷設するの動機となりしと云ふ。
県道中の主要道路を挙ぐれば左の十四道なり(県費支弁)
川越、東京逍。川越(大宮)浦和道。川越、松山逍。川越、(豊岡)青梅道。川越、上尾道。川越、越生道。川越、所沢道。川越、坂戸道。浦和川越道。 川越、児玉道。川越、鴻巣道。川越、秩父道。川越、忍道。川越、志木道。(以上川越案内に依る)
本市は城下町時代には主として地方農家を顧客として、商工業の殷盛を見たりしが、時代の進歩と共に、商業上にも一段の活気を呈するに至り、市を中心地として、販路を拡張して、鉄道、電車、自働車等は各方面に通じて、交通機関の完備を見たり。
即ち
- 西武線(川越、国分寺間、及所沢町、東村山を経由、高田馬場間、旧川越鉄道)川越駅(新田町)
- 西武大宮線(川越、大宮間 旧川越電気鉄道)久保町駅(川越)
- 東上線(寄居、池袋間、川越経由市内に二駅あり)川越市駅(六軒町)川越西町駅(西町)
西武線は東京行の外中央線との連絡あり、叉、所沢駅にて武蔵野線との連絡あり。西武大宮線は中仙道線及東北本線の連絡あり、併し乍ら市内に二社三線四駅ありて、地方の人々は却て不便を感ずるものあり、されば一大停車場の設置を望むもの多く、予て懸案となら居る志義町久保町二道路の達成の後、始めて一段の進捗をみるに至らんか、尚叉、省線として、国有鉄道の設置を望んで其運動に着手するものあり、今は茲に交通上の概要をのみ挙げおく。
五、物産及商工業
川越地方に於ける旧幕時代の主要物産は農産物にして、就中米麦を多く産出せり。叉川越名物として、天下に冠たる川越芋は、品質と美味とを以て名高し、叉工業について述ぶれば、織物は川越の特産物として古来より著名なり。
近来芋を利川する菓子ありて各地に産出す。近時工業方面稍々発展し、殊に川越箪笥は今や到る處に販路を拡張して、好評を博せり。
茲に市勢一覧に依り本市の重なる物産の一ヶ年産出高の概要を記せば(昭和七年度市勢一覧に依る)
織物綿絹共 | 計金七拾九萬四千五百九拾一円 |
醸造物 | 計金四拾一萬五千三百八拾六円 |
工産物 | 計金三百五拾一萬三千八百九拾六円 |
内訳
箪笥 | 七三六、一二〇円 |
染物 | 五、〇〇〇 |
履物 | 九五、五〇〇 |
製粉 | 七九九、三五〇 |
紡績 | 一、一三四、四九二 |
菓子類 | 八五、二一二 |
麺類 | 一五、五〇〇 |
器械 | 九五、七五九 |
其他 | 五四六、九六三 |
蠶絲 真綿 | 計金七拾四萬六千四百拾七円 |
農産物 | 計金四拾三萬一千九百一円 |
畜産物 | 計金七千円 |
当川越市を中心として、地方の物産取引行はる、故に各組合、各会社、各工場、問屋及市場等自ら繁栄し、本市に存立する株式会社二十三、合名合資会社十五、産業組合十、織物及其他工場二十三等あり、孰れも盛んなり、隨つて此等商工業の発展に伴つて金融機関の必要あり、現在本市にある銀行は七行にして、此外信用組合の組織をも見るに至れり、又商工業機関として、川越商工会議所(元商業会議所)あり、会議所は明治三十二年に創立を計り、翌三十三年二月十三日農商務大臣の認可を得て、同三十五年川越会舘を設立せし時、郭町に商業会議所を移して、川越商工会議所となり、更に昭和六年十月志義町旧郵便局跡に移転せり。
川越商工会議所議員(昭和七年五月)
製糸業 | 石川仁平(株式会社石川製糸所代表者) |
自転車商 | 横山重次郎 |
会社重役 | 綾部利右衛門(株式会社第八十五銀行代表者) |
農蠶具製造業 | 水村常蔵 |
材木商 | 鈴木徳次郎 |
荒物商 | 清水友右衛門 |
酒類商 | 畑尾源太郎 |
織物製造業 | 沼田文次郎 |
箪笥商 | 関根栄吉 |
材木商 | 鹿戸安太郎 |
豆腐製造業 | 市野川松次郎 |
石炭商 | 印藤元右衛門 |
縫物製造業 | 田中音吉 |
米穀商 | 長島清次郎 |
箪筒、履物商 | 高橋米吉 |
魚類商 | 松本伊助 |
代理業 | 小山三省 |
洋物商 | 岩崎育太郎 |
士木建築請負業 | 印藤順造 |
呉服太物商 | 渡辺吉右衛門 |
米穀商 | 柴田善兵衛 |
陶器商 | 神島瀧蔵 |
菓子商 | 山崎嘉七 |
米穀商 | 原田要吉 |
酒類商 | 木下藤次郎 |
織物製造業 | 渋沢長平 |
書籍商 | 吉田栄吉 |
青物商 | 新井源蔵 |
薪炭商 | 横川是哉 |
小間物商 | 染谷清四郎 |
尚叉明治三十一年一月には実業組合を組織したりしが大正十年五月に至り川越商工会と改称せり左に現役員名を掲ぐ。(昭和七年五月現在)
会長 | 石川仁平 |
副会長 | 畑尾源太郎 |
同 | 矢島利三郎 |
幹事 | 岩崎育太郎 |
同 | 田中音吉 |
同 | 原田要吉 |
同 | 高橋米吉 |
同 | 清水友右衛門 |
同 | 神島瀧蔵 |
同 | 松本伊助 |
同 | 新井源蔵 |
同 | 木下藤次郎 |
同 | 新井長治 |
商議員 | |
第一部 | 田中音吉 |
第二部 | 浅海彌吉 |
第三部 | 栗原作次郎 |
第四部 | 渡辺吉右衛門 |
同 | 山崎三之助 |
第五部 | 原田要吉 |
第六部 | 山崎定吉 |
第七部 | 伊藤長三郎 |
第八部 | 高橋米吉 |
第九部 | 清水友右衛門 |
第十部 | 神島瀧蔵 |
第十一部 | 岩崎育太郎 |
第十二部 | 小島助八 |
第十三部 | 松崎利平 |
第十四部 | 綾部喜右衛門 |
第十五部 | 矢島三之助 |
第十六部 | 木村萬平 |
第十七部 | 松本伊助 |
第十八部 | 新井源蔵 |
同 | 越中喜重 |
同 | 市野川松次郎 |
第十九部 | 木下藤次郎 |
第二十部 | 宮崎豊次郎 |
第廿一部 | 印藤元右衛門 |
第廿二部 | 勝田作造 |
第廿三部 | 町田甚兵衛 |
第廿四部 | 小川菊太郎 |
第廿五部 | 印藤光五郎 |
同 | 神田庄五郎 |
同 | 鈴木忠太郎 |
第廿六部 | 早川茂八 |
第廿七部 | 新井長治 |
顧問 | 山崎博之 |
同 | 鈴木徳次郎 |
六、川越市の各官衙及学校所在地
川越市役所 | 川越本町(大手前) |
同 上出張所 | 仙波出張所菅原町 |
川越常備消防組詰所 | 川越本町 |
川越警察署 | 江戸町 |
蠶病検査取締所(蠶種検査所) | 新宿町 |
川越税務署 | 宮下町 |
川越区裁刊所 | 同上 |
本県川越工区出張所 | 同上 |
同 米穀検査所 | 同上 |
旧入間郡役所 | 同上 |
川越分監(少年刑務所) | 西町 |
川越郵便局(二等局)本局 | 志義町 |
川越市立川越図書館 | 南久保町 |
川越職業紹介所 | 川越本町 |
川越託児所 | 郭町 |
川越商工会議所 | 志義町 |
川越本町郵便局支局 | 札の辻 |
川越新田町郵便局支局 | 新田町 |
各学校所在地
埼玉県立川越中学校 | 郭町 |
埼玉県立蠶業学校 | 小仙波 |
埼玉県立工業学校(工業試験所図案調製所) | 通町 |
埼玉県立川越高等女学校 | 六軒町 |
川越市立川越商業学校 | 郭町 |
川越尋常高等小学校 | 同上 |
川越商工実修学校 | 同上 |
川越市立青年訓練所 | 同上 |
川越第一尋常小学校 | 同上 |
川越第二尋常小学校 | 中原町 |
川越第三尋常小学校 | 菅原町 |
私立埼玉盲唖学校 | 神明町 |
私立川越産婆看護婦学校 | 小仙波 |
私立山村裁縫女学校 | 同上 |
私立初雁幼稚園 | 郭町 |
私立川越幼稚園 | 相生町 |
此外に私塾等二三あり。
七、宗教、社寺
川越人は人情一体に敦厚にして仁侠に富み、質朴なり、所謂宿場根性の風は絶えて之れなかりしものゝ如し。宗教心の如きも一般に信仰に篤く、神社仏閣等に参拝する各講社の如きは数十組もあり、隨て社寺は檀信徒の力によりて、相当堂宇の荘厳と格式とを維持せり。
神社 | 県社二、村社四、無格者二五、計三一 |
寺院 | 総計二九、天台宗六、曹洞宗八、真言宗一、時宗二、浄土宗五、日蓮宗四、真宗三 |
説教所 | 基督教四、神道一二、仏道二、計一八 |
県社としては、三芳野、氷川の両社あり、叉小仙波の村社日枝神社、及び東照宮の如きは雁史上に著名なる由緒あり、寺院として、喜多院、蓮馨寺、養壽院、東明寺、中院等皆歴史上に由緒ありて郷土史上深き関係を有せり。
八、市行政概要
本市の行政機関は市長及助役、収入役、主事、書記若干名を以て組織し、別に全市十二大字を三十五区に分ち各区に区長一名、区長代理一名宛を置き、区内の事務を補助執行せしめ、且つ常設委員ありて其分担事務を処弁せり、此外各町に年行司、或は組長ありて、其町区内の事務を処理す。議政機関は市会議員三十名を以て組織し、議員中より市参事会員拾名を選挙す。
川越市市会議員(議席順に由る)
金剛秀一 市野川松次郎 松本米吉 久米原脩丈 高橋米吉 清水友右衛門 小林近蔵 須ヶ間喜重 染谷清四郎 木崎守長 大河内要三 中沢峯吉 岩沢善蔵 松岡国造 関根才吉 金子八壽夫 拾山荘次郎 新井平吉 寺井存良 印藤元右衛門 関沢節治 河合正臣 栗原登喜蔵 佐藤叉蔵 榎本惣五郎 石川今次郎 小峰市平 新井長治 柴田善兵衛 福島久次(以上三十名)昭和七年五月現在
(議長 栗原登喜蔵 副議長 清水友右衛門)
川越市
市長 | 早川金十郎 |
助役 | 東山栄三郎 |
収入役 | 奥平巧 |
庶務課長 | 町山余志三 |
土木課長 | 今沢金蔵 |
市視学兼人事課長 | 辻尚邨 |
昭和七年度埼玉県川越市歳入歳出予算
歳入 | ||
一金五拾七萬八千円百四拾円 | 歳入予算高 | |
歳出 | ||
一金貳拾三萬八千八百五拾七円 | 経常部予算高 | |
一余三拾三萬九千五百八拾三円 | 臨時部予算高 | |
合計 | 金五拾七萬八千四百四拾圓 | |
歳入歳出差引 | 残金ナシ |
人口 | 三八、一二九人 |
戸数 | 六、七五九戸 |
(昭和七年現在)